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分子動力学シミュレーション

抗体を「ヒト型化」する際に問題が起きる
 我が国では、マウスのモノクローナル抗体技術をもとに、「ゲノム抗体創薬」プロジェクトが進められてきた。その中には、11種のがん治療抗体リードも含まれ、その数は現在も増えている。
 そこでこれらをすべて、人体内で使えるように「ヒト型化」し、がん細胞を殺す「多機能化」できれば、進行がんの画期的な副作用のすくない治療法が可能となる。
 しかし、天然物では安定であった抗体のアミノ酸を、ヒト型化や、プレターゲッティングのためにわずかでも改変すると次の問題がおこる。

(1)foldingが大きく変化し凝集しやすくタンパクの発現が困難。
(2)抗原への親和性が低下し、体内動態が変化する。
(3)改変により人体内での新たな免疫原性がうまれ異物となりやすい。

 ここにコンピューター技術の進歩の波がチャンスをもたらした。コンピューターによる分子動力学シミュレーションの進歩により、理論的には計算機の支援で抗体の機能を高める設計が可能となったのだ。


抗体改変設計を可能にする大規模並列計算
エネルギー・プロファイル
 このために本提案では、それぞれの分野での我が国トップ研究者が、各研究チームのリーダーとしてサイクル型の研究に参加している。

 分子動力学設計チーム・リーダーの東京大学の藤谷は、溶液中のタンパク質とリガンドの結合自由エネルギーの分子動力学の計算のためのアルゴリズムの開発の世界的権威であり、従来、スタンダードとされているAMBERの力場パラメーターの現実との解離を解決するため高精度の力場を作り出した。右図(エネルギー・プロファイル)は、タンパク質のラマチャンドラ角(Φ,Ψ)のエネルギー・プロファイルを示し、黒い線が高精度分子軌道法(LCCSD)による結果で、他の線は従来のタンパク質力場によるプロファイルで、この不一致が従来のタンパク質力場の精度が悪かった原因である。藤谷らが開発したMP-CAFEEの新しい力場は黒い線に一致する (2009,Phys Rev)。スエーデンのGROMACS開発者により2010年予想される次期正式リリース4.1版にMP-CAFEE法の機能が内包される。これで大規模並列計算効率が良いMP-CAFEE計算が一般に可能になる(MAPPLE CAFEE)。
 抗原と抗体の親和性を増すには、抗体の6本のCDRのループのアミノ酸配列と、抗原のアミノ酸と位置関係の最適化が鍵である。
 分子動力学設計チームの分担研究者の土居(東京大学)は、ヒト全タンパクのアミノ酸配列をもとに他生物種のタンパクをヒト化する方法を開発している(ヒト型化した抗体)。ストレプトアビジンのアミノ酸改変設計大きな威力を発揮している。微妙なタンパク質の設計には、配列ベースと立体構造ベースの両者の予測を用いる事が重要である。

 結晶構造解析チーム・リーダーの大阪大学の井上は、結晶の作成の専門家であり、抗原と抗体の高品質な結晶を作る。熱力学解析チーム・リーダーの東大新領域の津本は、scFvの発現と巻き戻し技術をもち、抗原と抗体の結合をマイクロカロリメーターでのエントロピーも含めた測定から解析する(革新的結晶化法の確立)。


MAPPLE CAFEE ヒト型化した抗体 革新的結晶化法の確立