再発や転移をふくむ進行がんは、我が国最多の死因であり、原病の疼痛や多臓器不全での負担に加え、治療時の手術、放射線や化学療法の副作用も大きく、経済的な負担も極めて大きい。
抗体医薬品は、副作用が少ないという特長から、進行がん治療薬として大きな期待がもたれている。しかし、現状では奏功性が低く、有用性が限定的で治癒や緩解になりにくい上に高コストなため、技術開発が急務である。
MDADD(Molecular Dynamics for Antibody Drug Development/分子設計抗体プロジェクト)は、国の最先端研究開発支援プログラム(※)の一つとして、進行がんをピンポイントに治療する多機能抗体薬を生み出すことを目標に、各分野の第一級の研究者が集まり、スタートしたプロジェクトである。
このプロジェクトの提案者である東京大学先端科学技術研究センター 教授 児玉龍彦は、「ゲノム抗体創薬」の提唱者であると共に、世界最大級の「モノクローナル抗体ライブラリー」の製作者でもある。このモノクローナル抗体ライブラリーを活用し「がん」のリード抗体を担がん動物のPETイメージングにより選抜。そして熱力学的に分析し、結晶構造を解明。それをもとにsingle chain variable fragment (scFv)に低免疫原化したストレプトアビジン(SA)を融合させたscFv・SAタンパクを設計し、大腸菌で発現。そして、γ線核種標識ビオチンで、PET診断し、β線核種標識ビオチンで治療を統合的に行い、人体内で使用可能なプレターゲッティング医薬品を創出する。
3年間で実用化に漕ぎつけることを第一目標とし、第一世代肝臓がん治療抗体は世界で認可臨床入り、第二世代RIT肺がん治療抗体と第三世代消化器がんのプレターゲッティング薬は治験入りを目指す。このプロジェクトは進行がん治療抗体薬の奏功率、有効性を向上させるだけでなく、医療費の低減、コンピュータで機能性抗体の医薬を分子設計する技術を作るなど、連続的イノベーションで我が国の抗体薬を世界トップに押し上げるのも目標だ。
※最先端研究支援プログラムは、『3?5年で世界のトップを目指した先端的研究を推進し、産業、安全保障等の分野における我が国の中長期的な国際的競争力、底力の強化を図るとともに、研究開発成果の国民及び社会への確かな還元を図ることを目的とした、「研究者最優先」の研究支援制度である』。2010年1月に30プロジェクトが選ばれた。